【資料あらすじ】 出船の位置に 井上能孝 「自分を見つめる」P.18~20
卒業三十周年のクラス会。水産高校の教え子の一人が切り出した思い出話です。
「先生――。英語の授業でよく言われたこと覚えてますか?」
「出船の位置に靴を脱ごう――ですよ」
他の教え子たちも、心に残り、今も実行しているということをこもごも語ります。
「船が入港するとき、船首を沖へ向けて停泊する。いざという時、直ちにエンジンを始動し、一直線に沖出しするのが、船乗りの心構えなのだよ」
「靴の脱ぎ方も同じだよ。海に生きるものは<出船の位置に靴を脱ぐ>というわけ。自由不自由、不自由自由ってね。つまり初めに身勝手な行動をする人は、あとから不自由な目にあい、初めに不自由を我慢する人は、あとで真の自由を手に入れられるということだね」。
当時、水産教育に携わる教師として、日常の心構えをたとえ話としてたんたんと語ったにすぎなかったのですが、教え子たちはその何気ない言葉を心に留め、今でも実行しているというのです。